過去のコラムで、事業戦略を策定するうえでの効果的なフレームワークや事業戦略の策定手順について触れました。フレームワークとは、「構造」や「枠組み」を意味し、ものごとを考える際にあらかじめ決められた枠組みや手順に沿って行う手法のことで、フレームワークを活用することで自身の考えや情報をスムーズに整理しやすくなり、効率化が図れるとともに、有効性も高くなり、他者への説明もしやすくなります。
そこでこの記事では、フレームワークについて更に深掘りし、解説していきます。
目次
- 外部環境分析に役立つフレームワーク2選
- 内部環境分析に役立つフレームワーク2選
- 外部/内部双方の環境分析に役立つフレームワーク2選
- 適切な戦略フレームワークを選択するための「戦略パレット」
- 戦略フレームワークを活かす方法とは?
- まとめ
外部環境分析に役立つフレームワーク2選
事業戦略策定において、自社の置かれている現状を知るためには、内部環境と外部環境を分析することが必要です。とりわけ外部環境を分析することは非常に大切な作業です。なぜなら、内部環境は自社の要因であるため比較的コントロールできますが、外部環境は自社以外の要因であるためコントロールが難しいからです。外部環境を分析するには、自社にとっての「機会」や「脅威」といった観点から整理し、分析することが大切です。
ここでは、外部環境を分析するために役立つフレームワークを2つご紹介します。
PEST分析
まず、外部環境分析を細分化すると、マクロ環境分析とミクロ環境分析に分類されますが、マクロ環境を把握するためにはPEST分析が有効です。PEST分析とは、政治(Politics)経済(Economy)社会(Society)技術(Technology)の頭文字を取った分析で、4つの視点から業界に及ぼす影響や環境変化を分析する手法として最も有名なフレームワークとなります。
概ね3~5年の中長期的にトレンドをみていくのが基本となり、各項目や項目をクロスし、仮説を立ててシミュレーションすることで環境変化や業事業活動に影響を及ぼす要因を探ることができる分析です。
ファイブフォース(5Forces)分析
ファイブフォース(5Forces)分析は、特定の業界分析を行うフレームワークで、「業界内の競合」「代替品の脅威」「新規参入の脅威」「売り手の交渉力」「買い手の交渉力」という、業界内の競争に影響を与える5つの要因(脅威)を指します。これらの要因(脅威)を分析し、業界の収益性や魅力を探ります。
業界内の競合が多いと競争力が高く、少ないと有利に働く場面が多くなります。代替品の脅威は、すでにある製品やサービスが同様のニーズを持つ製品やサービスに置き換えられてしまう脅威を指します。新規参入の脅威では、業界への参入のしやすさを考えます。参入障壁が低いと必然的に参入率が高まり、競争も激化し、収益性も低下します。売り手の交渉力は、独占技術を有する業界などでは強くなりやすく、その場合、買い手が負担するコストは高くなります。一方で買い手の交渉力は、買い手から価格値下げや品質向上を要求されると、大きな収益を上げることが難しくなります。
内部環境分析に役立つフレームワーク2選
自社の置かれている状況を分析する際、外部環境をコントロールすることは難しく、内部環境に関しては変化や適応が可能だと前述しましたが、わかりやすく言い換えると内部環境分析は、「自分達は何が出来るのか、勝てる部分はどこにあるのか」「競合と比較して何が足りていないのか」など「強み」や「弱み」の観点から整理し検討する分析です。
外部環境のコントロール不可能な部分をよく調査し、そのうえで変化が可能な内部環境を適応させていく流れとなります。
VRIO分析
内部環境分析には、自社の製品やサービスの強み・弱みの分析や組織や企業風土の強み・弱みの分析などがあり、なかでもVRIO分析は、経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Imitability)、組織(Organization)のそれぞれの頭文字を取った分析法で、自社の経営資源についての競争性優位性を把握するための分析です。
経済価値(Value)は、自社の製品やサービスが世の中でどれくらい役立っているか、経済的な価値があるかを分析します。希少性(Rarity)は、性能や開発力など他社にはない独自性の高い技術などを保有しているかどうかを表しています。
模倣困難性(Imitability)は、独自技術や特許など他社の模倣が困難なものを表し、組織(Organization)は、企業風土や組織体制など他社にはない強みがあるかどうかを表しています。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析とは、商品やサービスがエンドユーザーに届くまでの各工程の連鎖を「価値の連鎖」として表すものです。
企業の活動を主活動(マーケティング)と支援活動(経理、人事など)に分け、どの工程で付加価値の高いものが生み出されているのかといった「強み」や、どの工程に問題があるのかといった「弱み」を洗い出していきます。そのうえで「弱み」となっている問題への対策を講じたり、「強み」である付加価値の高い工程をさらに高めることが可能かどうかを検討していくことで、コスト削減や差別化などといった「強み」に繋げていきます。
外部/内部双方の環境分析に役立つフレームワーク2選
外部環境を把握し内部環境を整理したあとは、コントロール不可能な環境に自社を適応させていきます。それぞれの環境を洗い出したことにより、これらの情報をもとに分析が可能なフレームワークがあるのです。
ここでは、外部/内部双方の環境を軸にしたフレームワークにより具体的な戦略を補助する分析法をお伝えしていきます。
3C分析
3C分析では、自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)の観点から、自社の置かれている状況や取り巻く環境を把握することで、何をすべきか洗い出すことが可能です。正確な状況を把握するため、3C分析では徹底して事実情報を集めていきます。このとき、集めた情報に正確性がないと間違った解釈をしてしまう可能性が高まってしまうでしょう。
3C分析は後述するSWOT分析と組み合わせることで、さらに効果的な分析を行うことが可能となります。
SWOT分析
3C分析で集めた事実をもとに、SWOT分析で解釈を行い、客観的かつ的確な現状を認識します。
強み(Strength)や弱み(Weakness)では、自社内部でコントロールができる要因について整理します。従ってこの2つは、内部環境の要因になります。
一方、機会(Opportunity) や脅威(Threat)では、政治や経済、社会情勢など目標を達成するうえで障害となりうるコントロール不可能な外部環境要因について整理します。
この内外で影響し合う要因を合わせて俯瞰したうえで自社の置かれている環境に合わせた戦略目標を決定していきます。
適切な戦略フレームワークを選択するための「戦略パレット」
事業戦略策定に役立つフレームワークをいくつか紹介しましたが、全てが万能で様々な状況に対応できるフレームワークはなく、常に変化する目の前の状況に合わせてスタイルを変更する必要があります。
ここでは、事業環境に適した戦略フレームワークを選択するために分類された5つの「戦略パレット」という手法について紹介していきます。
古典的(Classical)
古典的(Classical)戦略フレームワークは、比較的安定した予測可能な環境で競争性も不変なことから変えることは難しい環境であるため、その範囲内でできること(優位なポジションの獲得)を目指すことが重要です。公共事業(電気や水道、ガスなどの生活インフラなど)やエネルギー関連の産業が当てはまります。
適応的(Adaptive)
適応的(Adaptive)戦略フレームワークは、事業環境を予測することも変化させることも難しい場合に採用します。予測が難しい場合は優位性も長続きせず、さまざまな混乱を乗り越えるための力が必要です。そのためには、自社が変化出来る部分を即応的に柔軟性をもって判断していくことが重要です。半導体事業や衣料品小売などが当てはまります。
洞察的(Visionary)
洞察的(Visionary)戦略フレームワークは、ある程度予測可能な環境において、事業環境も自らの力で形成できる場合に選択します。新たな技術やサービスを先駆けて導入し、他社よりも魅力的な価値を実現することなどが挙げられます。起業家がスタートアップ企業で用いられる場合が多い手法です。
成形的(Shaping)
成形的(Shaping)戦略フレームワークは、予測困難な環境において、事業環境も変革が難しい場合に選択されます。一見、予測困難な環境と変革が難しい場合はイノベーションが難しいように思えますが、共通価値の創造により業界全体の構造や新しい事業の環境を成形・再形成することで有効性が生じる手法です。ソフトウェア産業やスマートフォンアプリの市場で用いられる場合が多い手法です。
復興的(Renewal)
復興的(Renewal)戦略フレームワークは、自社が過酷な環境下で生存が厳しい場合に競争力を取り戻すために用いられる手法です。環境悪化を認識し、現行の運営方針で維持が難しい場合は方針転換し、その後、成長を目指し最終的に再び成功に導いていく手法です。
戦略フレームワークを活かす方法とは?
数ある戦略フレームワークの中から自社に合ったものを選び活かすためには、思考軸を明確にする必要があります。その思考軸をわかりやすく具体的にすると共通して見られる要素があります。
ここでは、その具体的に当てはまる要素を3つご紹介します。
理解 ~利益や変化を構造的に把握する~
自分たちの置かれている環境や立ち位置を正確に知るためには、より多くの情報から得られた「事実」が必要になります。また、表層上の現状を把握するだけではなく、その背景にある要因までを構造的に把握することで将来的な変化も予測可能となります。
構造的に把握するとは、たとえば数字が上下した際にその要因が長期的な要因か、短期的な要因かも合わせて背景を捉えることをいいます。背景を捉えることで、今後どのような可能性が存在するか将来的なことも予測できます。
判断 ~どのような結果を目指すか決める~
ステップの最初における理解をもとに現状を把握し、背景まで捉えたうえでどうすべきかを判断していく要素となります。正確に理解できていれば判断の選択肢も広がり、自社の強みを活かし、競争優位を保てる行動が可能となります。
理解の要素では最高を目指すことは可能ですが、最高の判断を誰もが下すことは難しいといえます。そのため、最善の選択を取ることが重要になります。そのうえで、一定の利害関係者に説得しなくてはなりません。
行動 ~競争優位を維持し、最善の選択をする~
理解をもとに最善の選択をし、次にその選択を具現化していく要素です。たとえ同じ判断を下したとしても、どのように具現化するかによって成否は大きく変化します。 行動の過程こそが戦略価値を定める上で最も重要な要素となります。
一般的に経営に関わる意思決定者と価値を作り出す現場グループでは、新しい意思決定に対し反発が生まれることは少なくありません。そのため、早い段階で経営資源を持つ担当者を巻き込み、実行直前に出鼻をくじかれないよう行動することも必要になります。
まとめ
事業戦略を立てるうえで、フレームワークという考え方は非常に役立つツールとなります。同時に、その見極めや判断は経験やノウハウが精度に大きく影響し、自社のみの戦略だけでは見えていなかった部分が見えてくる可能性もあります。
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